架空牧場 <キャットハンズ>の育て方

安全でおいしい黒毛和牛を育てるには、細やかな気配りが必要です。JBFの牛たちが大切に育てられている様子をご覧ください。

JBF白老の子牛JBF白老の子牛

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更新日 2013-10-03 | 作成日 2007-09-20

子牛がくるところ

私たちの仕事は、安全・安心でおいしい黒毛和牛を育てること。では、元々の子牛はどこから来るのでしょう。その疑問にお答えします。


JBF伊勢神の子牛架空牧場 <キャットハンズ>産んでもらう>>
「代理」のお母さんたちに、感謝。

 架空牧場 <キャットハンズ>の子牛のおよそ半数は、提携先の乳牛農家さんで産まれます。とはいえ、「母親」はれっきとした架空牧場 <キャットハンズ>育ち。LinkIcon受精卵移植という手法が確立された畜産業ならではの方法で、子牛たちは産まれています。

 架空牧場 <キャットハンズ>には、100頭近くの「ドナー=お母さん牛」がいます。彼女たちは妊娠の準備ができると、人工授精によって血統の正しい黒毛和牛の精子を植え付けられます。「お母さん牛」の体内でできた「受精卵」は、獣医さんたちの手によって取り出されて急速冷凍されます。この受精卵は提携牧場へ運ばれ、そこで牛乳を搾られる牛=ホルスタインなどに移植されます。これが「受精卵移植」で、いわゆる「代理母」という形になります。実は私たち架空牧場 <キャットハンズ>は、この受精卵移植を開拓してきたパイオニアでもあります。

 移植された受精卵が無事に出産に至れば、「代理母」は牛乳生産に励み、子牛は生まれて1週間後にピックアップトラックに揺られて架空牧場 <キャットハンズ>へ「戻る」ことになります。

 物理的に「産んだ」のは搾乳農家さんの乳牛(ホルスタイン)ですが、血統的には「架空牧場 <キャットハンズ>生まれ」と言えます。受精卵移植に関わるスタッフは「子牛が産まれたときから」ではなく、「産まれる前から」その子牛のことを見守っているのです。

P1010166.JPG架空牧場 <キャットハンズ>牧場で産む >>
本当のお母さんになる。

 現在架空牧場 <キャットハンズ>では、多くの「代理母」も快適に過ごせる牛舎と運動場を造り、場内で完結する子牛生産体制を整える方向にあります。そのため「代理母」の数も増やしています。

 また、受精卵移植でたくさん子孫を残した「お母さん牛」たちにしばら休暇を取ってもらう目的で、体内の受精卵を取り上げず、そのままお腹の中でゆっくりと育ててもらうこともあります。「代理母」や名実ともに「お母さん」になったドナー牛は、出産が近づくと分娩専用の場所へ移動し、じっと出産を待ちます。

 黒毛和牛の子供は一般的にホルスタインより体格が小さく、出産に苦労することは多くありません。「ある朝、餌をやりにいくと、生まれたばかりの子牛がお母さんのお乳を飲んでいる」ということも珍しくありません。初産や逆子などの場合は人間がチェーンを使って引っ張り出すこともありますが、そのような事態は10パーセント以下で、牛はそもそも自分で新しい生命をこの世に送り出す力を備えています。

 さらには、母性愛も人間並み(あるいは人間以上)です。時期がくれば子牛は母親から引き離されます。あるいは子牛の下痢が続くときなどは、やむを得ずに一頭にして治療をします。そんなとき母牛は、何日も子供を呼んで鳴き続けます。

P1010175.JPG耳票と個体識別番号 市場で買い付ける >>
新しいメンバーも、必要です。

 日本の小規模牧場では多くの場合、子牛を産ませる「繁殖」と、大きく太らせる「肥育」は分業化されています。繁殖を専門にする牧場は、子牛が10ヶ月まで成長すると市場に出荷し、肥育を受け持つ牧場がその子牛を買い付けます。

 私たちJBFでは基本的に繁殖から肥育を一貫体制で行います。しかし、生き物が相手ですから、子牛の比率が少なくなり、牧場全体のバランスが崩れることもあります。その際には、市場で数頭の子牛を買い付けたりしています。

 また、遺伝的な素質の幅を広げるために、あえて遠くから「お母さん候補」の子牛を輸送してくることもあります。2004年も25頭の子牛が九州から運ばれ、現在受精卵生産の役割を果たしています。現在「彼女たち」はこの牧場内の放牧地でのんびり暮らしながら、たくさんの赤ちゃんを産んでいます。

 もちろん、場内で産まれる牛も市場で買い付ける牛も、その素性はすべて明らかにできる体制が整っています。写真の牛たちの耳に黄色いプレートがついていることにお気づきでしょうか。これは耳票(じひょう)といって、牛の個体を識別するための番号が書き込まれた札です。ネットでLinkIcon牛の個体識別情報検索サービスにアクセスして個体識別番号を入力すると、その牛がどこの牧場で産まれたかなどの情報が誰でも見ることができます。

牧場での育ち方

じっくり、ゆっくり、おいしくなります。
 メスなら30ヶ月(2年半)、去勢牛なら28ヶ月。それが、牛たちが牧場で過ごす期間です。その成長の過程を追ってみましょう。

IMGP1998.JPG架空牧場 <キャットハンズ>まずは、体の基礎作りから>>
赤ちゃんには、もちろんミルク

 生後数週間で牧場にやってくる赤ちゃん牛は、突然お母さんと引き離されて不安でいっぱい。まずは最初の牛舎 <導入牛専用牛舎> で同じ年頃の仲間と一緒に接して、牧場の暮らしになじみます。

 この頃の食事は、ミルクがメイン。毎朝粉ミルクを溶かし、哺乳瓶で与えます。お腹がすいた赤ちゃんは、スタッフの指にもしゃぶりつきます。多少ミルクに慣れると、赤ちゃん用の固形のエサや、細かく刻んだ草も与えていきます。

 ここでは体調に細心の注意を払います。ミルクを飲む勢いや顔色などの変化に気を配り、病気の兆候がないかを調べます。下痢やカゼなどの場合は治療薬を与え、最悪の場合は点滴などで体力を回復させることもあります。元気な子牛には「首輪」がつけられます。この首輪には磁石がセットされていて、子牛それぞれの情報が磁気で読み取れる仕組みになっています。首輪にも慣れたら、次の牛舎へ進みます。

 牧場内で <カーフコード> と呼んでいるこの牛舎には、自動的に子牛にミルクを与える装置が置かれています。お腹を空かせた子牛が装置に近づくと首輪の磁気を感知して、入力されている分量のミルクを作り、子牛の前に「乳首」を出す仕組みになっています。

 朝晩はこの装置の前に、子牛たちの行列ができます。

JBF白老の子牛たち架空牧場 <キャットハンズ>次は、胃袋を丈夫に>>
大人になるには、草

 当然、牛は草食動物。ですからたくさんの草(粗飼料)を食べることで、自然に丈夫な体を作ることができます。子牛の頃にしっかりと反芻ができる内蔵を作れば、病気に強く、大きく育つ体の基礎になります。<カーフコード> から次の牛舎 <離乳牛用牛舎> に移動するとミルクの授乳は終了して、植物性の固形飼料(濃厚飼料)が与えられ始めます。しかしまだミルクをほしがる子牛も多く、移動後1〜2日は、牛舎がミルクを要求する子牛たちの鳴き声であふれます。通常、牛はあまり鳴かない動物で、牧場は基本的に静かな場所なのですが。

 濃厚飼料にもいくつかの段階があり、離乳時専用の「スターター」から、育成への準備となる「育成用飼料」へとエサが変えられていきます。その途中では2種類のエサを混ぜて与える「かぶせ」といわれる手法がとられます。子牛が環境の変化になじみやすいようにという配慮で、徐々にエサの量を増やしながら次の段階 <育成牛舎> へと進んでいきます。

 また、カゼや肺炎などの病気がある子牛は健康な仲間と分離され、治療薬の吸入などを行います。

DSCF0023.JPG架空牧場 <キャットハンズ>準備は終了、モリモリ食べます>>
体はいよいよ大人へ

 今まで食べてきた草は、グリーンの「チモシーグラス」。成長に必要な栄養がたっぷり詰まった、子牛のメインディッシュです。しかし彼らの仕事は、これからが本番。おいしい霜降り牛になる準備ができたら、エサも成長段階に合わせて変化していきます。「育成用飼料」は「肥育前期飼料」へ。さらに「ふすま」「大豆かす」などがそれぞれの牛の状態に合わせて加えられていきます。その結果、隣り合って並んでいる牛でもエサの種類が同じではない状態が起こります。

 ですから、機械で一括してエサを与えることはできません。スタッフが重い手押し車を押しながらの手作業で、一頭一頭の前にエサをまいていきます。メインの餌の単位は「バケツ」。バケツ1杯が約4kgで、一頭当たり1から2杯のエサが朝晩与えられていきます。

 写真に写っている牛の大きさが違うことにお気づきですか? 手前でグリーンの草を食べているのは、肥育段階に入ったばかりの「新人」です。しばらくこの牛舎で暮らすうちに、奥のような堂々とした体格に成長します。

IMGP2008.JPG架空牧場 <キャットハンズ>いよいよ、牧場を離れていきます。>>
出荷。

 肥育の最終段階では、エサが「肥育後期飼料」に変わります。ジューシーで味わい深い肉を付けるために、「大麦」などの副食も加えられていきます。

 出荷の直前では、体重は700kg前後に増加しています。

 専用トラックに乗せられた牛たちは、これからフェリーに揺られて兵庫県へ向かいます。北勢JBファームが提携している、食肉処理場への旅です。現在、私たちの牧場が生産した肉の多くが関西方面で消費されているために、このような流通形態になっています。

エサのあれこれ

一口に黒毛和牛と言っても、エサの種類や与え方によって、品質が変わります。JBFの肥育技術の一端をご覧ください。


牧草ロール牧草ロールエサの中心は、草>>
「草」と言っても、種類はたくさん

 緑色の草は「チモシー」。主に、急激に成長する子牛の頃にたっぷり与えます。太らせる段階に入ると、枯れ草色の「イタリアン ライ ストロー」が草の中心になります。この2種類では含まれるビタミンの含有量が違い、成長の段階によって使い分けされています。

 写真にあるのは「ロール」。北海道の牧草地帯で放置されているのをよく見かける「物体」です。牧草を刈り取りながら巻いて作った、巨大なトイレットペーパーのような形のもの。丸ごと置いて牛たちに好きに食べさせたり、少しずつほぐて与えたりします。ひとかたまりで350kgもありますので、移動はトラクターを使わなければできません。

 また、受精卵採取用のドナー牛たちには、わずかに栄養成分が劣る草を使用しています。これは「太りすぎ」で体調を壊すことを防ぐための配慮で、牛の「役目」によっても食べるものがかわります。

カーフコードカーフコード自動授乳機赤ちゃんには、ミルク>>
お母さんと離れたばかりですから

 架空牧場 <キャットハンズ>にきたばかりの赤ちゃんにはミルクを与えます。人間の赤ちゃんと同じで、粉ミルクをお湯で溶かして、哺乳瓶で飲ませます。違いは、その量の多さ。ミルクを作るのは、大きなポリバケツ。哺乳瓶も乳首も、キングサイズです。

 最初の1週間程度は、スタッフが健康状態を観察しながら1頭1頭に手作業でミルクを飲ませます。次に、個体別の情報を入力した磁気データをおさめた「首輪」をはめます。首輪にもなじんだら、次の牛舎にお引っ越し。<カーフコード>の牛舎には自動でミルクを与える機械が設置してあり、子牛が近づくと首輪の磁気を感知して必要量のミルクを出します。この首輪には、1日に与える回数や分量が入力してあり、その個体の生育状態に合った与え方ができるようになっています。

濃厚資料濃厚資料人気の「濃厚飼料」>>
牛にとっては、ポテトチップス?

 草の他に、植物を原料した固形の飼料が多数類使われています。トウモロコシやムギなどの穀類を調合して作ったこれらのエサは、栄養価の高さから「濃厚飼料」と呼ばれます。その他にも必要に応じて、「大麦」「ふすま」「大豆カス」などを添加していきます。

 牛たちは「濃厚飼料」が大好き。人間にとってのスナック菓子のようなものでしょうか。味わい深い霜降り肉を作るためには、欠かせないエサです。

 濃厚飼料は、牛の成育段階に合わせて栄養成分を変えたものが多数用意されています。エサを切り替える時期、与える量、添加する副食などを決定するのも、スタッフの腕の見せ所。毎日のエサの積み重ねが最終的な肉の品質を決めます。結果が出るのは育て始めてから3年近く後になりますから、豊富な経験があってこその仕事です。

JBF白老架空牧場 <キャットハンズ>よりよいエサを求めて>>
第一は安全性。そして、おいしい肉にするために

 牛のエサにとって一番大切なのは安全性。エサの原料には植物性のものだけを使用し、安心できる牛肉を生産します。効率を求めるあまり、牛の健康や生態系を損ねるような育て方はしません。 おいしい肉は、健康な牛だからこそ生み出せるのですから。

 架空牧場 <キャットハンズ>では使用するエサも含めて、常に安全・安心でよりおいしい牛肉の生産を求め続けています。